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浦和地方裁判所 昭和54年(ワ)334号 判決

原告

井口與吉

ほか一名

被告

下村光夫

主文

一  被告は、原告井口與吉に対し、金一四三万〇二六六円及びこれに対する昭和五三年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告井口はつ子に対し、金九六万九五六八円及びこれに対する昭和五三年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中参加によつて生じた費用はこれを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を補助参加人の負担とし、その余の訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告井口與吉に対し、金九八七万七〇九四円及びこれに対する昭和五三年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告井口はつ子に対し、金八五九万九七五八円及びこれに対する昭和五三年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(1) 日時 昭和五三年七月五日午前三時四〇分ころ

(2) 場所 埼玉県浦和市常盤町九丁目三一番一八号先交差点横断歩道上

(3) 加害車 自家用軽四輪貨物自動車(練馬四〇う三九三〇号)

右運転者 被告

(4) 被害者 訴外井口静雄(以下「静雄」という。)

(5) 態様 戸田橋方面から大宮方面に通ずる国道一七号線(以下「道路(一)」という。)と、国電北浦和駅から羽根倉橋方面に通ずる道路(以下「道路(二)」という。)とが交差する前記交差点(以下「本件交差点」という。)の、道路(一)大宮側横断歩道上で横断歩道西端から〇・八メートル東寄りの地点において、静雄は、西側から東側に横断すべく佇立していたところ、道路(一)を蕨市方面から大宮方面に向けて直進進行してきた加害車の左前部が同人に衝突し、同人を路上にはね飛ばしたものである。

(6) 結果 静雄は、右事故により両大腿骨々折、顔面挫創、両手挫傷、脳挫傷の傷害を負い、昭和五三年七月五日午前六時五三分浦和市東高砂町二九番一八号川久保病院で死亡した。

2  責任原因

被告は、加害者の保有者であり、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による損害賠償責任がある。

3  損害

(1) 治療費 一万六六八八円

原告與吉が支払つた。

(2) 文書料 一万七三〇〇円

原告與吉が、診療報酬明細書料、死亡診断書料及び交通事故証明書料合計一万七三〇〇円を支払つた。

(3) 葬儀費 五八万五二七五円

原告與吉が支払つた。

(4) 仏壇購入費 一五万円

原告與吉は、三五万円で仏壇を購入したが、そのうち一五万円が本件事故と相当因果関係がある。

(5) 墓地購入費 五万円

原告興吉は、一五万円で墓地を購入したが、そのうち五万円が本件事故と相当因果関係がある。

(6) 墓碑建設費 六〇万円

原告與吉は、一六三万三八〇〇円で墓碑を建設したが、そのうち六〇万円が本件事故と相当因果関係がある。

(7) 逸失利益 二五一二万六九二二円

(ア) 静雄の本件事故(昭和五三年七月五日)前三か月間の収入は、五六万円であるので、同人の本件事故当時の年収は二二四万円と推定されるところ、昭和五三年七月六日から同五四年四月一五日までの間の逸失利益は、生活費として収入の五割を控除すると、八七万一四五二円である。昭和五四年は少くとも五パーセントの賃金の増額があつたと認められるので、同年の年収は二三五万二〇〇〇円と推定すべきところ、静雄は満六七歳まで就労可能であつたと考えられるから、昭和五四年四月一六日(同人の誕生日)から同人が満六七歳に達するまでの三七年間の逸失利益の現価は、収入の五割を生活費として控除し、年五分の割合の中間利息を年別ホフマン方式で控除して計算すると二四二五万五四七〇円となる。

よつて、静雄の逸失利益は二五一二万六九二二円である。

(イ) 原告らは、静雄の両親であるところ、静雄の死亡により各二分の一の相続分でその遺産を相続したので、右逸失利益の各二分の一である各一二五六万三四六一円の請求権を取得した。

(8) 慰謝料 一二〇〇万円

静雄は、被告の交通三悪と称される酒酔い居眠り運転で路上にはね飛ばされたうえ、被告に何ら救護措置を受けないで轢き逃げされ、前途ある若き生命を奪われた。同人の無念やるかたなきことは勿論のこと、原告らは、わが子の悲惨な死にあい、筆舌に尽し難い精神的苦痛を受けた。殊に、原告與吉は、静雄の事故死を聞き、寝込んでしまつたほどである。原告らの受けた右苦痛に対する慰謝料は各六〇〇万円が相当である。

(9) 弁護士費用 一五〇万円

原告らは、本件訴訟の提起及び追行を弁護士稲益賢之に委任し、着手金各二五万円を支払い、成功報酬として各五〇万円を支払う旨約した。

4  損害の填補

原告らは、本件事故に基づき自賠責保険から損害賠償金二〇〇二万七四八八円を受領したので、その二分の一に相当する各一〇〇一万三七四四円を原告らの前記各損害金に充当した。

5  結論

よつて、原告與吉は、被告に対し、前記損害合計一〇七一万八九八〇円のうち九八七万七〇九四円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五三年七月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告はつ子は、被告に対し、前記損害合計九二九万九七一七円のうち八五九万九七五八円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五三年七月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、(1)ないし(4)及び(6)を認める。(5)のうち、静雄が横断歩道上に〇・八メートル出て佇立していたことは否認し、その余は認める。

2  請求原因2は争う。

3  請求原因3の事実中、(1)は認める。(2)は本件事故との相当因果関係を争う。(3)のうち、本件事故と相当因果関係のあるのは五〇万円であり、その余は争う。(4)ないし(6)は本件事故との相当因果関係を争う。(7)のうち静雄の本件事故前三か月間の収入が五六万円であつたことは認めるが、昭和五四年の賃金の増額及び逸失利益の計算方法を争う。中間利息の控除はライプニツツ式によりなされるべきである。原告らの相続の事実は不知。(8)の数額は争う。

5  請求原因4の事実を認める。

三  抗弁

本件事故発生に関しては、静雄にも重大な過失があるから、過失相殺されるべきである。

すなわち、本件交差点は、本件事故時被告の進行方向の対面信号は青色であり、静雄が横断しようとしていた横断歩道の歩行者用信号は赤色であつた。また、本件交差点は見通しがよく、事故当時は早朝で交通量も少なく、静雄としては左右の車両の進行状況等を容易に確認することができた。しかるに、静雄は、本件事故直前相当量飲酒して酩酊し、横断歩道の歩行者用信号の表示も識別できないような状態で、右信号が赤色であるのを無視し、また左右の車両の進行状況の確認も怠つたまま横断歩道の横断を開始したため本件事故が発生したものである。

仮に、静雄が本件事故時横断歩道上の衝突地点に佇立していたのだとしても、右のような本件交差点の状況に照らせば、静雄は加害車が接近してくることを容易に確認し得たのであり、まして歩行者用信号が赤色であつたから加害車の走行状況を十分確認し、かつ加害車との接触を回避するために直ちに歩道上に戻るべき注意義務があつたのに、これらの注意義務を怠つた過失がある。

このように、本件事故発生について静雄に重大な過失があり、その過失割合は七割を下らない。

なお、過失相殺の主張に関する原告らの自白の撤回には異議がある。

四  抗弁に対する認否、反論

過失相殺の主張は争う。

抗弁事実中、静雄が本件事故直前飲酒していたこと、本件事故当時早朝で本件交差点の交通量が少なかつたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告らは、はしめ、静雄が本件事故時歩行者用信号を含めて本件交差点の信号が全赤のときに横断歩道上に一歩出て信号待ちしていたことを認め、一割の過失があることを自白したが、右は真実に反し、錯誤に基づくものであるから、自白を撤回し、否認する。

静雄は、本件事故当時酩酊状態ではなく、意識は明瞭であり、事故直前本件交差点の信号が全赤であつたので一旦歩道上で信号待ちし、横断歩道の歩行者用信号が青色に変わつたので、横断すべく歩道から横断歩道上に一歩踏み出した際、加害車がその対面する車両用信号が赤色であるのにかかわらず、道路(一)を戸田橋方面から直進してきたので、静雄は横断を中止し、同地点(横断歩道西端から約〇・八メートル東寄りの地点)で立ち止つて待避していたところ、被告が酒酔い居眠り運転をしていたため、静雄に気付かず加害車を衝突させたものである。

このように、本件事故は、被告の一方的かつ重大な過失によつて発生したものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の(1)ないし(4)の事実、同(5)のうち静雄が横断歩道上に〇・八メートル出て佇立していたとの点を除いた事実、及び同(6)の事実は、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一号証の二及び二三によれば、静雄が加害車に衝突された地点は、右横断歩道の西端から約〇・八メートル東寄りの横断歩道上であることが認められる。

(右以外の事故の態様については、後記四で判断する。)

二  責任原因

成立に争いのない乙第一号証の一四によれば、被告が加害車の保有者であることが認められ、他に特段の主張立証もないから、被告は運行供用者として本件事故につき自賠法三条による損害賠償責任がある。

三  損害

1  治療費

原告與吉が、本件事故により静雄の治療費として一万六六八八円を支払つたことは、当事者間に争いがない。

2  文書料

成立に争いのない甲第五号証及び証人大矢翠子の証言によれば、原告與吉が、診療報酬明細書料、死亡診断書料として一万五〇〇〇円、事故証明書料として少なくとも四〇〇円を支払つたことが認められ、これは、本件事故に基き、原告與吉がその支払を余儀なくされたものであると認められるから、本件事故と相当因果関係のある損害であるということができる。

3  葬儀関係費

証人大矢翠子の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第七号証、第八号証の一ないし五によれば、原告與吉は、静雄の葬儀費用として四八万七七七五円、仏壇購入費として三五万円、墓地購入費として一五万円、墓碑建設費として一六三万円、以上葬儀関係費用の合計二六一万七七七五円を支払つたことが認められるところ、後記静雄の年齢、職業、社会的地位等を考慮すると、そのうち六〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

4  逸失利益

成立に争いのない甲第三号証、第一八号証、証人大矢翠子の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第六号証によれば、本件事故当時、静雄は、浦和市内の喫茶店に勤務する二九歳の健康な男子であつたことが認められるところ、本件事故前三か月間の静雄の収入が五六万円であつたことは当事者間に争いがないので、同人の本件事故当時の年収は二二四万円であり、同人が本件事故によつて死亡しなければ満六七歳まで三八年間就労可能であつて、その間年二二四万円を下廻ることのない収入を得ることができたものと推認することができる。

原告らは、静雄の昭和五四年の年収は少くとも五パーセントの賃金の増額があつたと主張するが、右増額の事実を認めるに足りる証拠はないので、採用しない。

そこで、右収入から生活費としてその五割を控除し、中間利息の控除方法としては、原告ら主張の年別ホフマン方式をもつて格別不合理なものとはいえないと考えるから、右方式に従つて年五分の中間利息を控除して、静雄の逸失利益の現価を計算すると、二三四八万六六二四円となる。

成立に争いのない甲第三号証、第一七号証によれば、原告らが静雄の両親であり、同人の死亡により、原告らが同人の遺産を各二分の一宛相続した事実が認められるから、原告らは、静雄の被告に対する右逸失利益の損害賠償請求権を二分の一宛取得したものというべきである。

5  慰謝料

本件事故により、子を失つた原告らの精神的苦痛が大きかつたことは推認するに難くなく、これに対する慰謝料としては、各五〇〇万円が相当である。

四  過失相殺の抗弁について

前記一(本件事故の発生)の事実に、成立に争いのない甲第一一号証の一ないし六、第一二、第一三号証、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし一二、第一八ないし第二一号証、第二二号証の一ないし七、第二三、第二四号証、乙第一号証の五、六、一二、一四、一六、一八及び一九、昭和五四年四月一七日当時の本件交差点付近の写真であることにつき争いのない甲第一〇号証の一ないし一二、本件交差点付近の写真であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によつてその撮影日が昭和五五年九月ころと認められる甲第二五号証の一ないし四、昭和五五年一〇月三〇日当時の本件事故現場付近の写真であることにつき争いのない乙第四号証の一ないし五、証人平田真佐己(後記措信しない部分を除く)、同川口幸久(同上)、同川口和久(同上)、同木村公裕の各証言、被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件交差点は、京浜東北線北浦和駅近くの市街地に位置しており、横断歩道が設置され、信号機(車両用及び歩行者用)によつて交通整理の行われている交差点であり、制限速度は時速四〇キロである。本件交差点において、道路(二)のうち北浦和駅方向の部分と道路(一)とはほぼ直角に交差し、道路(二)のうち羽根倉橋方向の部分と道路(一)とは斜めに(道路(一)の大宮方向の部分に対して鋭角に)交差しており、道路(一)、(二)ともアスフアルト舗装され歩車道の区別があり、本件事故当時路面は乾燥していた。道路(一)は、歩車道がガードレールによつて区分され、車道の幅員は一〇・〇メートル、歩道の幅員は二・二メートルである、また、道路(一)は本件交差点付近ではほぼ南北に走つているが、本件交差点付近からその北側大宮方向はゆるやかに西側にカーブしている。しかし、道路(一)の本件交差点手前戸田橋方向から本件交差点の見通し状況は良好であり、本件事故当時街灯等によつて本件交差点付近は明るく、また交通量は非常に少なかつた。

2  静雄は、本件事故前日の昭和五三年七月四日午後五時ころまで浦和市内にある勤務先の喫茶店で仕事をした後、一旦帰宅し、午後八時ころ同店に現われて午後一一時ころまでビール等を飲んだうえ、その後本件事故に至るまでの間にスナツクや屋台のおでん屋等で飲酒し、本件事故時には相当酩酊した状態にあつた。

静雄は、本件事故直前一人で本件交差点に現われ、道路(一)の大宮側横断歩道を西側から東側へ横断しようとして、歩行者用信号が赤色であつたため、右横断歩道手前の道路(一)の歩道上で右横断歩道との境の縁石付近に暫く佇立していた。その際、右横断歩道を静雄とは逆に東側から西側へ、歩行者用信号が赤色であるのを無視して横断してきた二人連れの通行人があり、静雄は右縁石付近において右二名の通行人とすれ違う際に声をかけられて挨拶を交わしたが、その約一〇秒位後に、静雄は右横断歩道上で右縁石から約〇・八メートルの地点において、加害車に衝突された。

3  被告は、本件事故前日の七月四日午後九時三〇分ころから事故当日の同月五日午前三時ころまで、川口市内のスナツク二軒において、婚約者らと共にウイスキー水割等を飲酒したが、その後婚約者を川口市領家の同人方まで送り届け、大宮市所在の自宅へ帰宅するため一人で加害車を運転し、浦和市の六辻派出所前交差点から国道一七号線(道路(一))に入り、同道路を大宮方面に向け北上していたところ、埼玉県庁前付近を通過するころから眠気を覚えたが、停車して休憩をとることもせず、そのまま運転を続けた。そして、本件交差点付近に差しかかつた時点では、被告は完全に居眠り運転の状態であり、本件交差点に進入通過する際に対面する信号機の表示をみることなく、また、横断歩道付近の通行人の有無、動静等を確認することもないままに、時速約六〇キロ位で本件交差点を直進通過しようとして、前記のとおり横断歩道上に約〇・八メートル出ていた静雄に加害車左前部を衝突させ、同人を約九・六メートル先の歩道上にはね飛ばした。被告は、右衝突の衝撃により我に帰り、ハンドルを右に切つたが、単にガードレールにぶつかつた程度の事故と軽信し、事故の状況を確認することなく、そのまま逃走した。

4  被告が本件交差点に進入した時点及び加害車と静雄とが衝突した時点において、道路(一)の加害車の進行方向と対面する車両用信号機は青色を表示し、静雄が横断しようとしていた横断歩道の歩行者用信号機は赤色を表示していた。

以上の事実が認められ、証人平田真佐己、同川口幸久、同川口和久の各証言中右認定に反する部分は、前掲乙第一号証の五及び一二の記載、証人木村公裕の証言と対比して措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない(なお、右4の事実のうち、横断歩道の歩行者用信号機が本件事故時赤色の表示であつたとの点については、原告らははじめ右事実を自白し、後に自白を撤回したが、本件全証拠によつても右自白が真実に反するものとは認め難いから、右自白の撤回は許されず、従つて右事実は当事者間に争いがない。)。

右認定の事実に基づいて考えると、静雄は、本件事故時、横断歩道の歩行者用信号が赤色を表示し、道路(一)の車両用信号が青色を表示しているのにかかわらず、横断歩道上に進み出て(但し、同人が果して事故時に横断を開始して歩行中であつたのか、それとも信号待ちのため佇立していたのかは、本件全証拠を検討しても明らかではない。)加害車にはねられたのであるから、相当の過失を免れないが、他方、被告においても、本件交差点を通過する際には完全な居眠り運転の状態であり、被告にとつてその対面する信号が青色であつたことは全く偶然の結果に過ぎず、危険性極めて大きい運転態度であるから、その過失は大きいものというべく、その他本件交差点が市街地にあること、加害車が進行してきた方向からの見通しがよいこと、静雄が横断歩道上に出ていたといつても歩道との境の縁石からわずか〇・八メートルの地点であること等前記認定の諸事情を彼此勘案すると、双方の過失割合は、被告において六割五分、静雄において三割五分と認めるのが相当である。

五  損害の填補

前記三及び四認定のところによれば、過失相殺後の損害額は、原告與吉については一一二九万四〇一〇円、原告はつ子については一〇八八万三三一二円となるところ、原告らが自賠責保険から二〇〇二万七四八八円を受領し、それぞれその二分の一である一〇〇一万三七四四円を各自の損害額に充当したことは当事者間に争いがないので、右填補分を差し引くと、原告與吉の損害は一二八万〇二六六円、原告はつ子の損害は八六万九五六八円となる。

六  弁護士費用

原告らが原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任したことは弁護の全趣旨により明らかであり、証人大矢翠子の証言によれば、原告ら主張のごとき着手金支払の事実及び成功報酬支払の約束が存することが認められるところ、本件事案の性質、難易、審理経過、認容額等に鑑みると、被告に対し賠償を求め得る弁護士費用は、原告與吉につき一五万円、原告はつ子につき一〇万円が相当である。

七  以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告與吉において一四三万〇二六六円、原告はつ子において九六万九五六八円、及び右各金員に対する本件事故の翌日である昭和五三年七月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用(参加によつて生じた費用を含む。)の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九四条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松一雄)

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